「明神鼻の春夏秋冬」を愉しんでいる私たちの活動にとって、しめ縄造りは一年を締めくくり、翌年へ繫ぐかなめの行事です。その日は12月にしては暖かく、しめ縄制作日和になりました。旧千鳥旅館のそばにある駐車場に着くと、袴をとって干しておいた藁(今年も灘崎の農家さんに頂いた)は、カラカラに乾燥しカビの心配もなさそう。現地にはしめ縄造りを指導して下さっている今井さんがすでにいらしており、制作の段取りを打ち合わせます。
「今年で3回目となるしめ縄制作。一番いいものを作りましょう。あと、来年のために太さと長さによってどのくらい藁の束を使用したかを記録しておきましょう。」
…… しめ縄作りに欠かせない存在となった今井さんとの出会いは、日比の街を散策していた3年前のこと。港街の面影を伝える建物が消えゆくなか、最期に残された旧千鳥旅館でしめ飾りを作っている方が居ると聞いたことがきっかけでした。そんなご縁で、今井さんには初年度からしめ縄造りを指南してくださっています。
とはいえ、幼い頃藁草履を作っていた今井さんに比べて私たちは藁を綯う経験はほぼなく、その上7メートルを越す大しめ縄となれば、なかなか納得の行くものは出来ませんでした。それでも、今年はこれまでの経験を踏まえて良いものが作れそうな予感がします。
しめ縄造りの手順
1:藁にジョウロで水を打ち、木槌で藁の繊維を切らないように叩いて柔らかくする。
2:しめ縄の太さに合わせて1束の量を決め、その端を銅線でしっかりと固定する。
3:固定した束を均等に3つに分け、まず2つを綯っていく。藁を継ぎ足す際、2本の藁束が交差する所でしっかりと締める。
4:2本が綯い終わると、残りの1本を巻きつけ、端を固定する。
5:継ぎ足す際に飛び出した藁をハサミで剪定し整えてしめ縄完成。
打ち合わせが終わり、明神鼻のメンバーに日比町の方々合わせて12名で、いよいよ今年のしめ縄制作が始まります。
1:藁を柔らかくなめす
藁は叩いておかないと綯う際に馴染まず、折れてしまうので欠かせない行程ですが、木槌を振り上げる腕は10分もすると重くなり、干されている束を見ると気が遠くなります。明神鼻の小屋のメンバーの息子さん(20代)の頑張りに助けられました。
2:しめ縄の制作
しめ縄の直径をおよそ20センチに決めると、先ずは藁の端に銅線を巻きペンチで締め上げて固定をする。縄をなう際には、銅線で固定した部分を持つ人、継ぎ足すための藁を揃え均等な量を渡す人、最初になっていく藁2本にそれぞれ一人に加え、サポートする人が一人の合計5人で息を合わせてなっていきます。ペースが上がってくると、藁を叩く担当の腕が悲鳴を上げ、雑になると今井さんの檄が飛んできます。
……藁を叩くのも、綯うのもかなりの体力を使う作業ですが、時々作業を覗きに来てくれる近所の方と話しを弾ませたり、中にはコーヒーとお菓子を差し入れてくださる方もおられて、残りの作業に力が入ります。
4:3本目
2本の藁束を綯い終えると、残りの1本を藁を継ぎ足しながら巻きつけていきます。この時、一つ飛ばしに溝へしっかりと沿わせて完成。出来上がったしめ縄は一見すると2本を綯ったように見えますが、実際は3本巻きつけられているのが不思議。
5:飛び出した藁の剪定
最初はキッチンバサミで切っていましたが、藁の束は太くなかなかハサミが通らない。そこで今井さんが自宅に取りに帰った剪定バサミで藁の束をサクサクと整えると、しめ縄の風格が出る。「これまでにない良いしめ縄ができた。」出来上がったしめ縄を眺めてそう感じたのは、初年度から面倒を見て下さっている今井さんをはじめ、集まった人たちに共通した思いだったのでは。

しめ縄の設置
しめ縄を車で明神鼻の麓まで運び、岬へと通じる階段を3人で担いで登る。毎年感じることですが、そう様子はさながら山道を這い登る大蛇だ。小屋の正面の木立にしめ縄を渡すと、大鎚島に通じる海の参道が出来ます。しめ縄を設置する作業も3年目となると慣れたもので、木の枝に掛けておいたロープにしめ縄の両端を結び、ロープを引きあげると7メートルのしめ縄が徐々に空へと登ります。大蛇も古巣である大槌島をながめます。小屋からの視線の高さを調節し、無事完了。早速、メンバーで大鎚島へ手を合わせてお参りをしました。

……しめ縄を設置した後、旧千鳥旅館に戻り、今井さんに手ほどきのもと家庭用のしめ飾りの制作を行いました。まず、作りたいしめ飾りのデザインを決め、しめ縄を作るときよりも丁寧に袴を取った藁を各々四十本づつ束にします。次に、その端を銅線とペンチで固定し、二十本づつ半分に分けます。しめ縄と異なり、しめ飾りはのこの二本を綯って作ります。しめ縄に比べ丁寧に細かく作るので、藁を綯うことの難しさを痛感します。およそ全体が整うとハサミで余分な部分を整え飾りなどをつけて完成となりました。
こうして「明神鼻の春夏秋冬」は、今年も節目を 新たな年を迎える準備が整いました。